Dark Modelのアルバムがノミネートされている、インディペンデント・ミュージック・アワードのウェブサイトにて、Dark ModelのQ&A/インタビューが掲載されました。下記URLのページにお立ち寄り、お楽しみ下さい。
http://www.independentmusicawards.com/ima/dark-model
(2016年5月9日更新) IMAウェブサイトのリンクが切れているので、tatsuyaoe.comに掲載した日本語版のインタビューをここに掲載します。
Q: 影響を受けた人は?
A: ここで名前を挙げるのは抵抗がありますが、様々な西洋と東洋の音楽の伝統の中であらゆるジャンルの垣根を越えて挑んできた、多くの「ゲーム・チェンジャー」「リスクテイカー」達です。
Q: ノミネートされた作品を説明して下さい。
A: この作品は、エピック、エモーショナルで、エッジーなビート志向のオーケストラ・エレクトロニック・ミュージックに焦点を当てた、Dark Modelとしての最初のフルアルバムです。Dark Modelは私の最新プロジェクトですが、私はまたCaptain Funkという名義も持ち、20年近くに渡ってエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーとして活動してきました。Dark Modelの基本的なコンセプトは、これまでのキャリアを通じて培った多岐に渡る音楽的なアイデアや要素を組み合わせて、壮大な「音楽の物語(インストゥルメンタル・ナラティブ)」を作ることです。
Dark Modelの音楽は、テーマ性のあるサウンドという点で映画のサウンドトラックなどと共通点が感じられるかも知れませんが、このアルバムでのプライオリティは、それ単体で成立しうる、独立した音楽を作ることであって、特定の映画や予告編、広告映像その他のメディアに従属する(=特定の映像に合わせた)音楽を作ることではありません。、
Q: この作品のレコーディングで何か変わったエフェクトや楽器を使いましたか?
私は常にエレクトロニック・ミュージックの垣根を超えるために楽器や音響的なエフェクトを使う新しい方法を模索しています。このアルバムは多くのオーケストラ楽器や電子楽器、サウンド・エフェクト、グリッチ音などをフィーチャーしていますが、制作にあたって留意したのは、この音楽がオーケストラ音楽の単なるトラディショナルな(=よくある)リミックスや二次・派生作品の様に聞こえないようにすること。また一から作曲をし、それぞれの音楽的な要素(それがエレクトロニックなものであれ、オーケストラ的なものであれ)を均等に扱って音を配置するように心がけることです。
変わった楽器と言えば、「Prayer for the New Moon」では日本の伝統的な楽器である尺八を、「Moment of Truth」ではドラムライン(マーチング・ドラム)のサウンドを使いました。「Prayer for the Moon」「Candle in the Desert」では、予測不能なドローンサウンドを作るために、グラニュラー・シンセシスというテクニックを使っています。
Q: スタジオで何かハッピーなアクシデントはありましたか?それとも全て計画通りに進みましたか?
A: このアルバムを制作している最中、2013年の9月に東京からニューヨークに移住をしたので、それまで何年の間も大事にしていた、ビンテージ・シンセからギター、ベース、アウトボード類などの多くの楽器を手放さなくてはなりませんでした。新しい環境でアルバム制作を続行するのは最初は大変でしたが、制作環境をダウンサイジングして変えたことで結果的に自分の頭の中がクリアになり、よりソリッドなプロダクションに集中することが出来たと思います。文字通り「レス・イズ・モア(少なければ少ない方が良い」という話です。
Q: このプロジェクトのための資金をどうやって集めたのですか?自分のポケットマネーから出したレコーディング費用をどの位の期間でリクープ(回収)できると思いますか?
A: 私は10年近く自分でレーベルを運営しています。インディペンデント・アーティストとして、またビジネス・オーナーとして、私はリリースをする際はそのための制作費とプロモーション費用を確保すること、そしてそれらの費用を出来るだけ早期に回収することに大きな注意を払ってきました。CDやデジタルでの売上に加えて、音楽出版・シンクライセンスでのディールにもウェイトを置いています。一般にリリースする前であっても積極的に自分の音楽をライセンスして売上を確保するように努めているので、リリースによる流通から売り上げた収益だけで結果を予測したり期待したりはしないようにしています。
このアルバムに関して言えば、公にリリースした時点で既に制作費などへの投資はほぼ回収していると言えるかと思います。私の様なインディペンデントなミュージシャンにとって、破産することなくボールを転がし続けることは、一時的なものでしかないハイプ(メディア上の評判)をあてにするよりもずっと大事なことです。
Q: なぜこの作品をインディペンデント・ミュージック・アワードに提出しようと思ったのですか?
A: 以前から、私の様な音楽にとってこのアワードは格好のジャッジになるだろうと思っていましたし、信頼できるプロフェッショナルやインディペンデント・ミュージックに関心のある音楽ファンに自分の音楽を聴いてもらい評価してもらう絶好の機会だと思ったからです。
Q: あなたの成功の定義は?またそれを達成した時はどのようにして分かりますか?
A: 成功というのは考え方(マインドセット)の問題だと思います。常にポジティブで建設的であること。自分に忠実に生きるためのエコシステム(精神面、物理的な面、人間関係など)を築くこと。それが大事です。
Q: この賞を受賞したら、自分のキャリアのゴールを達成するためにどう活用しますか?
A: 受賞した場合は、自分のファンやネットワークを通じてその嬉しさを伝えるでしょう。また受賞が自分にとって以前は閉ざされていたり、存在することを知らなかった、新たなドアを開けることにつながれば嬉しいです。
Q: あなたのオーディエンスはどういう人で、またどういった点がユニークですか?
A: 彼らはエレクトロニック・ミュージック/EDM/ダブステップ・ファン、トレイラー・ミュージック(映画の予告編音楽)・ファン、ハリウッド映画のサウンドトラックのファン、テレビゲーム音楽のファンなどから構成されていると思います。彼らのことを「エピック・ミュージック」のファンと呼んでも良いかも知れません。それはエレクトロニック・ミュージック、オーケストラ・トレイラー・ミュージックやサウンドトラックなどの世界的な台頭、認知に伴って生まれたとても新しいマーケットです。YoutubeやSoundCloudなどのソーシャル・メディアがこれらの世界中にいる若い音楽愛好家達をつなげ、新しい「ミュージック・トライブ」を生み出すことに大きく貢献しているように思います。
トラディショナルな音楽ジャンルの見方から言えば、これらのマーケットはまだ単純にインストゥルメンタル・ミュージックのサブジャンルと見られていたり、それ自身独立したカテゴリーとして認識されていないですが、私はこの「トライブ」は確実に育ってきていると信じています。
Q: 今度作ってみたい曲はありますか?またその理由は?
A: DAW (digital audio workstation)やソフトウェア・プラグインの様なテクノロジー、ツールに大きく依存しているエレクトロニック・ミュージシャンとして、私はつねにそれらの犠牲にならずに音楽を作りたいと思っています。私の最新アルバムで言えば、「Dance of Wrath」はかねてから私がやりたかったことの一つの結果であり、様々な試行錯誤をした後に、考えていたことがうまく形になったことに満足しています。
テクノロジーの進化のお陰で、人々はループやシーケンス、つまりコンピューターの画面の上で何かを時系列に並べることだけでダンスミュージック(ポップミュージックですら)を作曲できた気になってしまいがちです。しかしながら、そういった思い込みを持つことが、クオリティの高い、型破りな音楽を作る力を阻害してしまうこともあります。
私達のような現代の(エレクトロニック)ミュージシャンは、ともするとシーケンサーの奴隷になってしまう傾向があります。個人的にはDAWの様な道具なしでは生きていけないし、(ファンク、ディスコ、テクノ、EDMなど)ダンスミュージックが本来持っている繰り返しの良さはもちろん好きですが、私は時折DAW、シーケンサーが本来得意としていること/機能にあえて逆らってみることにしています。シーケンシャルでない方法で音楽を考えるようにしてみるのです。
「Dance of Wrath」に関して言えば、一歩踏み出して、直線的でビートやリフの繰り返しから成る音楽、つまり、単なる「オーケストラとエレクトロニカの融合」と言われる様なものや、「オーケストラ作品のエレクトロニック・リミックス」と言われる以上のものを作ろうと考えました。今後はさらにこういうこと-ユニークで面白い、オリジナルなサウンドを生み出す新しい方法でツールを使うということをやっていきたいと思います。
Q: あなたが聴いている音楽で、ファンが驚くであろう音楽は?
A: ZNR
Q: 普段新しい音楽をどうやって発見しますか?音楽を購入しますか、それともストリーミングで満足しますか?
A: 私はまだCDやダウンロードで音楽を購入します。ただその頻度は以前より少なくなっています(私は以前1万枚以上のアナログレコードとCDを所有する、熱心なクレート・ディガー/コレクターでした)。新しい音楽を発見する方法は様々です。仕事仲間や知り合いを通じて知ることはもちろん、日々新しい音楽が自分の耳に入ってきますが、全くのセレンディピティ(偶然巡り会う)としか言いようがないことも多いです。
Q: ファンがこのまま音楽が無料になることを期待し続けるとすれば、ミュージシャンはどうやってお金を稼いで(食べて)いくのでしょうか?
A: 私は全ての音楽ファンが音楽が無料になることを期待しているとは全然思いません。私のファンの多くは今もCDを購入してくれていますし、私同様フィジカルな商品の価値を評価している人は沢山います。ミュージシャンと一口に言っても、他の商売(個人的に「仕事(ジョブ)」という言葉は好きではありません)と同じで、そのビジネスモデルや、「食べていく」という言葉が本当に意味するものは人によって異なると思います。多くの人が、全てのミュージシャンが一つの同じビジネスモデルに則って仕事をしていて、全員が同じ運命を辿るかのような幻想を抱いていますが、我々はそれがいかに本当ではないかということにますます気がつき始めているのではないでしょうか。
Q: 今日の音楽業界についてファン、オーディエンスが理解していない部分はどこでしょうか?
A: 基本的に、私は音楽ファンやオーディエンスが音楽業界の仕組みや内情を理解する必要はそもそもないし、誤解があったとしてもそれを正しく理解し直す必要もないと思っています(音楽業界に入りたいと思っている訳でもない限り)。それは我々もまた消費者であるという見方で考えた場合、自分が所属していない業界の仕組みを理解する必要もないし、誤解を正す必要もないのと同じです。
一番大事なのはファンやオーディエンスが自分の共感できる音楽、琴線に触れ、何かを感じることが出来る音楽にコネクトし続けられることですから、その音楽と繋がりを築いていく上で、彼らがもっと複雑なビジネスサイドの事を知る必要はありません。彼らに必要なのはただ自分自身のテイストや価値に基いて音楽を選び、楽しみ、消費することだけだと思います。
一方で、我々ミュージシャンにとっては、音楽ビジネスはまさに「ビジネス」であって、趣味でもボランティアの機会でもありません。常に新しくてクリエイティブな稼ぎ方を見出して黒字でい続けない限り、我々のゲームは終わってしまいます。利益を上げられなくなったその日に、音楽(活動)は終わります。とは言うものの、そのことをファンやオーディエンスに「理解」してもらうことを期待すべきだというのは、間違っていると思います。
Q: 「デジタル・シングル/EP」対「フル・アルバム」、どちらに未来がありますか?
A: 私はどんなフォーマット・形態でも受け入れます。アーティストの立場から言えば、フル・アルバムの美学、価値を評価しています(だからこうしてフル・アルバムの形でリリースしているのです)が、フォーマットを選ぶ責任は私の手の中にはありません。それはオーディエンス(消費者)が決めることであって、私はその流れに従って行動します。とはいえ、自分と同じような感性の人達が存在する限りは、フル・アルバムという形態が時代遅れになって消滅するということはないはずです。
Q: この言葉に続けて文章を完成させて下さい。「音楽業界とは…」
A: 「(音楽業界とは、)興味がない用語です。」私は20年近くにわたって音楽ビジネスと関わっていますが、自分がある特定の「業界」に所属していると考えたことはありません。(だから我々もこの賞も、誇りを持って「インディペンデント」なわけですよね?)
自分の音楽を通じて、私はまた広告業界、映画業界、テクノロジー業界、その他音楽と繋がる様々な分野の人達と仕事をしています。音楽に関するビジネスというのはユビキタス(あらゆるところに存在するもの)ですし、弾力性があって柔軟なものなので、音楽「業界」という言葉が何を意味するのかや、自分がそこに所属しているかどうかについては、興味がありません。
Q: 来る年に向けて、何に取り組んでいますか?
A: 現在Dark Modelのセカンド・アルバムに取り組んでいます。今年の終わりまでにリリース出来るといいですね。
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